回転センサは自動車の各部の回転信号は車両制御に有用な基本的信号であるといえます。タイヤ回転を検知する「車輪速センサ」、エンジン回転を検出する「クランク角、カム角センサ」、ATの回転をとる「AT回転センサ」が主なところです。

車輪速センサ
回転センサの代表例として車輪速センサをとりあげて説明をします。
車輪速センサはタイヤの内側に搭載され、ホイールロータの回転を検出します。
回転を検出する原理は「磁気式」か「光学式」があげられますが、自動車車室外の環境では泥、汚れ、温度の影響の少ない磁気式が使われます。光学式は分解能は高いのですが、コストが高く、高温や汚れに弱い特徴があります。私もABSの創成期から開発をしており、大手カーメカーにはほぼ私のチームで開発したものが使われています。
クランク角、AT回転センサも構成は同様なものです

1..回転センサの候補となる各種磁気センサの原理と特長

(1)電磁ピックアップ式
磁気式の一つの方式が”電磁ピックアップ式”です。これはABS創成期から使われた古い方式ですが、堅牢なため今でもバスやトラック、アジアやタイの自動車に使われています。
原理としては磁束φの時間変化×巻き数Nで与えられ、
  V=-N・dφ/dt
であたえられます。低速では電圧が小さいため、3km/h未満の速度は検出が困難となってきます。
設計のポイントは細線エネメル線(φ0.07前後)の多数巻き(5000~8000回)のコイルを断線させない手法となります。

半導体式
(2)強磁性磁気抵抗式(AMR;Anisotropic-Magneto-Resistive)
Fe,Niなどの薄膜金属に電流を流し、磁界Hが電流方向Yに対して垂直方向Xに印加された場合(図1)、磁界の強さに応じて抵抗値が下がります。
磁界と抵抗の関係は図2のように磁界に対し左右対称になります。したがって磁界の正負の判定はできません。
この方式は磁界の変化速度には依存しませんので、ゼロ低速~高速まで検出可能です。
設計のポイントは外部磁界の影響をどう減らすか、素子パターンやオフセット磁界の与え方に工夫を凝らします。

(3)ホール素子、ホールIC式(Hall Element , Hall IC)
InSbやGaAsのような化合物半導体に一定電流を流しておき、素子に垂直な磁界を加えると、電荷はローレンツ力により電流とも磁界とも直角の方向に外力を受け、電荷が現れます。これをホール効果といい、この電圧をホール電圧;Vhといいます。
ホール式も磁界の変化速度には依存しませんので、ゼロ低速~高速まで検出可能です。
化合物半導体ほど高感度ではないですが、Siにも同様な効果があります。Si半導体は一般的な集積回路が作れますので、Siでホール素子を作成しておけば、その周囲をIC化し信号処理することが容易になります。素子と信号処理ICを1チップで形成したものをホールICと呼びます。Siの出力は小さいものですが、すぐ近傍に増幅し信号処理ができますので、単価が安く複雑な機能を与えることが可能です。
設計のポイントは強磁性MR同様、外部磁界の影響を減らすことですが、差動方式の素子パターンとすることでキャンセルが可能です。同時にオフセット電圧のキャンセル効果もあるためこの手法が主に用いられます。

(4)GMR(Giant Magneto Resistive element;巨大磁気抵抗効果素子)
 TMR(Tunnel Magneto Resistance element;トンネル磁気抵抗効果素子)
GMRやTMRは磁性層と非磁性を多層としてもので磁気抵抗変化率の大きい素子です。GMRは素子面に平行な方向で電気抵抗変化が現れますが、TMRは素子面に垂直な方向で電気抵抗が変化します。両素子とも高精度な角度センサとしてのポテンシャルがありますので、いろいろな素子メーカと可能性検討を進めた経緯もあります。開発HDDのヘッドなどによく使われていますが自動車用、回転センサ用としてはポピュラーでないので、ここでは詳述をやめておきます。

次のページでは「使われる環境を設計に反映する」について記述します

磁気センサについてさらに知りたい方は⇒2.磁気センシング技術と設計